父と母と子

映画「イカとクジラ(原題:The Squid and the Whale)」を観た。

この映画は2005年のアメリカ映画で、両親共に作家である兄弟とその両親を描いたドラマ/コメディ映画である。

バークマン一家の父バーナードと母ジェーンは、フランクとウォルトという2人の男の子を育てていく途中で不仲になり離婚することになる。そしてウォルト(兄)と、フランク(弟)が保護者の間を曜日ごとに行き来する共同監護の日々が始まる。

ジョーンは成功した作家で稼ぎも多いが、父バーナードは落ち目の作家で、小説の書き方講座を開きなんとか生活を成り立たせている。

商業的成功から見離された父は、父を慕う息子ウォルトに向かってこう言う。「大衆は俗物ばかりだ」「俗物とは本や映画に関心がない低レベルの人たちだ」と。

兄ウォルトも弟フランクも両親の不仲が原因のためか精神的に病んでいる。兄ウォルトは感情的になれなく、人の気持ちに鈍感な青年であり、弟フランクは、自分の精子を図書館の本や学校のロッカーにこすりつけるような奇怪な行動をとる。

両親の方はといえば、母ジェーンは夫との不仲のせいで何人かの男との虚しい情交を持ち、父バーナードは大衆を侮蔑するだけの稼ぎのない男で、兄ウォルトの好きな女の子とセックスしてしまうようなダメなやつである。

映画は途中から兄ウォルトの心理面に迫るようになる。兄ウォルトは父バーナードにべったりの父っ子青年である。ピンク・フロイドのHey Youという曲の歌詞をパクッて学校で自作の詞として歌った件で、ウォルトは精神科医に母との思い出を語る。

「昔母と博物館に行ってイカとクジラの戦いを見たことがある。見た時は怖かった。でも家に帰った後に母とその話をした時は楽しかった」と。

映画のクライマックスで父が疲労で倒れた後、ウォルトの恋を裏切って、ウォルトの好きな女の子と寝た弱った父を前にして、ウォルトは急に博物館に走り出す。イカとクジラの戦いを見るために。

きっとその時のウォルトには父は受け入れがたい恐怖として見えたのではないだろうか?イカとクジラの戦いを前に恐怖が楽しさに変わった母との思い出を想起し、ウォルトは自身の危機を乗り越えようとしているのである。母との関係を見直すことをその行動は促すだろう。