同じケースが、男性だと正常、女性だと狂人とされることについて

映画「リリス(原題:Lilith)」を観た。

この映画は1964年のアメリカ映画で、精神病院に入院をしている統合失調症の患者であるリリーと、その施設に勤める作業療法士ビンセント・ブルースとの恋愛とその恋愛の終わりまでを描いた映画である。

この映画の中に登場する人物リリスの人物設定には元となる像が存在するように思われる。それはユダヤの伝承において男児を害すると信じられていた女性の悪霊、その名は全く同じなリリスである。

様々な文献からの情報によるとリリスは、男の子を害し、男性を誘惑する、男性への復讐を誓った女性の悪霊である。

映画中のリリスも男子を困らせる女性として描かれている。

映画中のリリスはビンセントを困らせるために、他の女性と寝たりするし、また子供の男の子を困らせることをする。まだ十代前後の男子にセックスを連想させるキスをしたり、男子に小遣いをあげて私(リリス)の言ったとおりに小遣いを遣ったか来週チェックするわよと困らせる。

映画中のリリスは意図的に子供やビンセントを困らせているというよりも、その態度の理由をリリスの精神的異常のせいだと描いているように見える。つまり狂った人そのままの姿がリリスなのである。

映画中リリスは「私は愛しはしない。ただ自分の喜びが大切なの」というような発言をする。リリスは自分の喜びを追求するため、愛のために自身を束縛するような愛はいらないと言うのである。これは愛により他者を束縛して家庭を持つような男という種にとっては、とても耐えられないことである。

相手の愛を自分のものとしたい男(この映画の場合はビンセント)にとっては、リリスのような奔放な女性は男性の思うようにコントロールできない不都合な存在なのである。

映画中のリリスはただ狂女として描かれているために男性を傷つけることへの責任は問われはしない。精神異常者に健常者と同じ態度をとることは時として退けられるのである。

ユダヤの伝承にある悪霊リリスは女性解放運動の象徴の一つともなってる。なぜリリスが女性解放のシンボルとなるのか?それは『ベン・シラのアルファベット』という文献の中に理由があると思われる。

アダムの鋤骨からイヴが誕生する前にすでに女性がいた。それがリリスである。リリスは同じ土から作られたアダムとリリスを対等であると主張したのである。

男と同じ地位を求める女性像は悪霊となる。この映画でリリスが狂女として描かれているように、社会は女性の自立を認めようとはしていない。