遠くにあるようで実は近い問題

映画「AMY エイミー(原題:Amy)」を観た。

この映画は2015年のイギリス・アメリカ合作映画で、ユダヤ系イギリス人の女性歌手エイミー・ジェイド・ワインハウスの10代から27歳でのエイミーの死までをまとめたドキュメンタリー映画である。

本名エイミー・ジェイド・ワインハウス、芸名エイミー・ワインハウスの生涯は決して平坦なものではなかった。

エイミーは「リハブ」の大ヒットによって世界中にその名を轟かせた。そしてエイミーの周囲には大勢の取り巻きが溢れ、エイミーは心と身体のバランスを崩して27歳で若くして死ぬ。死因は摂食障害とアルコールによる心臓停止によるとされる。

この世の中に平凡な人生など存在するのか?という疑問が生じるが、私はエイミーの人生を波乱にとんだ人生だったと名付けることにしたい。

エイミーは心も身体も不安定な状態だった。それは10代から、いやもっと幼い頃からだったと思われる。

エイミーに立ちはだかった困難とは何か?それは両親の離婚、祖母の死、過食症、アルコール依存、薬物の使用である。そしてもう一つエイミーを安心させてくれるような恋人の不在もその中に数えられるのかもしれない。

エイミーが幼い頃にエイミーの両親の仲は冷めきったものとなり、エイミーの元から父は去り、エイミーは母親に育てられることになる。そして10代の頃に多量に食べ飲み吐くという行為をするようになる。そしてその後もアルコール薬物依存症になる。

この映画の中でエイミーはだんだんやつれていく。10代の頃から既に摂食障害だったのであるが、それに薬物依存が加わりエイミーは痩せ細っていく。そして心臓がその負担に耐えられなくなってエイミーは死ぬ。

エイミーの抱えていた問題はエイミーがスターだからのことなのであろうか?いや違う。エイミーと同じ問題を抱えた人は世界中に大勢いる。両親の離婚やアルコール依存、摂食障害は世界中の人々の抱える問題でもある。

エイミーに関するこの映画は、世界中に多く存在する社会的問題を抱えた人々を我々が発見することに繋がる。エイミーの存在が世界から隠されようとしている問題へと目を向けさせるのである。

エイミーの持つ悩みの中に現実と自分が望むものとのギャップがある。エイミーはスターとしての自分を受け入れることができなかった。この理想と現実とのギャップがエイミーを闇の中へ引きずり込むことの一因となってもいるのだろう。

エイミーの死へと向かう姿を見て我々は何を感じ取ればいいのか?それは社会的弱者に対する眼差しだと思われる。エイミーのようなスターの抱えていた問題は、一個人としてのエイミーの問題でもあり、それは我々が思っているよりも近くにある不幸なのである。