度を越した崇拝

映画「ボーダーライン(原題:Sicario)」を観た。

この映画は2015年のアメリカ映画で、麻薬組織(カルテル)を追う、FBIとCIAの捜査官そして、復讐者を描いた映画である。

映画の冒頭に映画の原題タイトル(“シカリオ”=殺し屋の意)についての説明がある。そこで「シカリオの語源はエルサレムの熱心党にある。祖国を侵略したローマを追い詰めた殺戮者たち」と書かれている。

この文章は何を指しているのかというと、紀元1C~2Cにかけて起こったユダヤ戦争のことを指していると思われる。熱心党とはユダヤ人を支配しようとするローマに対抗する人々のことで、熱心党のユダヤ人たちは決して自分たちの神以外のものを信じようとはしなかったという。

そしてその思想はついにエルサレム神殿を破壊するまでにユダヤの人々を染めてしまったと言われている。(ユダヤ戦記は1Cにユダヤ人、フラウィウス・ヨセフスによって書かれたユダヤ戦争の記録である。これが上記の見解の根拠となる)。

この映画の中には国を崇拝する者、カルテルを崇拝する者が登場する。そして登場人物の中で最も強いのが復讐を目的とした、復讐を崇拝する人物である。

熱心党とは、あまりにも抵抗心が強かったがために、自らの聖地をローマ人に破壊されてしまった人々である。もし彼らが抵抗しなかったら、ローマ人はエルサレムを破壊することまではしなかったかもしれない。

ユダヤの熱心党の人々は自らの神の栄光を望むことにより、自らの神殿を破壊してしまったのである。

この映画の中にメキシコ・カルテルの大ボスが登場する。この大ボスも熱心党と似ているといえる。自らが崇拝されており、自らの目的のためには容赦なく人々を殺していくのである。

当然殺しまくれば、人々の反感を買う。その殺された被害者の家族の中には、復讐を誓う者も現れるだろう。そして大ボスもまた、熱心党がローマに追い詰められたように、復讐者に追い詰められるのである。

しかし熱心党に似ているのは、メキシコ・カルテルの大ボスやその崇拝者たちだけであろうか?否違う。アメリカという国家に従うFBIやCIAの人間も熱心党に似ているのではないのだろうか?

皆、自らの信仰、崇拝するもの、大切なもののために殺人を繰り返す。多くの熱心党者がいる。自らの手で自らの首を絞めてしまうような人々のことである。

映画の最後でケイト・メイサーが銃の引き金をアレハンドロに対して引かなかったのは何故か?それは、彼女が熱心党との決別を決したからではないだろうか?