家族には守護者としての父が欠かせないのか?

映画「フレンチアルプスで起きたこと(原題:Force Majeure)」を観た。

この映画には別題として「TOURIST(ツーリスト)」というタイトルがついている。ツーリストとは観光客のことである。この映画は2014年製作のスウェーデンデンマーク、フランス、ノルウェーの合作映画で、映画の舞台はフランスのアルプス山脈で、映画の中心となるのは、スウェーデンから休暇でスキーを楽しみに来た家族である。

この家族は4人家族で、父トマス、母エバ、姉ヴェラ、弟ハリーから成る。映画にはこの他にトマス一家と関わる形で2組のカップルが登場する。その1つのカップルは旅先で知り合った男性と女性から成るカップルで、もう1つのカップルはマッツとファンニというトマス家の従来の知り合いであるカップルである。

この映画の冒頭では、雪崩が起きる。そして雪崩が起きた時に父トマスは家族3人を置き去りにして逃げてしまう。それがこの一家の中に横たわる危機になる。エバ、ヴェラ、ハリーは自分たちを置いて逃げ出してしまった父親が許せない。特に妻であるエバにとっては夫を許せない気持ちが所々に顕在するようになる。

映画ではフレンチ・アルプスで起こった5日間の出来事が描かれるのだが、妻のエバは夫トマスの過ちを責める。エバは直接的にも間接的にもトマスを責める。エバは映画に登場する2つのカップルに対して、夫トマスは家族を置いて逃げたのに逃げたことを認めようとしないと言う。それを聞いている夫トマスはどんどん追い詰められて最後には泣き出す。

「僕は自分がダメな奴だってわかっている。自分でも自分が嫌いだ」。泣くトマスを見ていたヴェラとハリーはトマスに覆いかぶさって泣く。そして2人の子供たちに誘われてトマス一家は、リゾート地の素敵なホテルで一つのかたまりとなって泣く。家族と父親の役割の深い関係がここにみられる。父親の地位が揺らぐと家族は崩壊に近づくのである。

トマス一家と出会う、1組のカップルの女性のみとエバが結婚観について語り合うシーンがある。その女性はエバと違って夫がいるにも拘らず、旅先のイタリア人男性とできている。エバは言う。「あなたのその勝手な振る舞いに家族は悪影響を受ける」。その女性はそんなことはないと言い返すのだが、エバは引き下がらずに口論になりそうになる。

“家族に悪影響与え”ないなら…。雪崩で逃げ出すような男なら、他の男と取り換えてしまいたい。エバは心のどこかでそう思っているのかもしれない。その考えを強く抑えつけようとするためにエバは、トマスにを怒鳴りつけ怒りを示すのかもしれない。