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「恣意的な規範を違反したものは破壊する!!」

映画「シリアル・ママ(原題:Serial Mam)」を観た。

この映画はアメリカで1994年に公開されたブラック・コメディ映画である。この映画の主人公はビバリー・サトフィンという女性でサトフィン一家の母親である。ビバリーの夫は歯科医で2人の子供がいる。子供は息子のチップと娘のミスティである。

この映画のタイトルであるシリアル・ママとはシリアル・キラー(連続殺人犯)に由来している。つまりシリアル・ママとは“連続殺人犯の母”というような意味である。

ビバリーはこの映画の中で次々に殺人を引き起こす。ビバリーは息子チップを馬鹿にした数学教師を殺し、夫との休日を邪魔した夫婦を殺し、レンタルビデオを巻き戻さない老婆を殺し、シートベルトをしない息子の友達を殺し、秋なのに白い靴を履いている女性を殺す(※)。

※アメリカでは白い洋服を着れるのは、イースターからレイバー・デイまでという習慣が、18世紀後半の裕福な夫人たちの習慣が起源としてあり、オールド・スクールな人々(古い価値観を守っている人)の間では、守られるべき習慣とされている。イースターとは春ごろ行われるキリスト教の祭り、レイバー・デイとは労働者の日のことで、9月の第一月曜日である。イースターからレイバー・デイとは、春から9月の第一月曜日の間であり、この間でしか白い着衣を身に着けてはいけないのである。

ビバリーは自らの中に規範があって、その規範を破った人を殺していく。恐いのはビバリーの規範が、ビバリーの中にだけ存在し、ビバリーの気にさわることを誰がいつしてしまい、ビバリーに殺されるかわからないことである。

ビバリーの中の規範を他の人が見つけ出すことはできないだろうが、ビバリーの守りたいものはわかる。それはビバリーの家族である。殺人をしておいて家族を守りたいとはとてつもない矛盾だが、ビバリーの犯した殺人を見ていると、ビバリービバリーの持つ理想的な家族像を壊すような人を殺していくのである。ビバリーは規範に縛られたサイコ・キラーなのである。

通常サイコ・キラーの殺人の理由は倒錯しているが、ビバリーの殺人の規範は“良い家庭”というもののように映画を見る側には思えてくるのである。

ビバリーは自らの規範に適わないことがあると、いとも簡単にルール違反の人を殺してしまう。この単純さがブラック・コメディたる由縁なのだろう。

ビバリーは破壊的衝動に囚われた人だともいえる。自らの欲動を生産的なことではなく、破壊的なことに費やしていくのである。ここでいう破壊とは殺人のことである。

ビバリーは自分を拘束している良い家庭という模範的な理想を守ろうとして、他の家族を壊してく。ビバリーは家父長制が生んだ、家父長制の破壊者なのである。