物理学者として、そして男としてのホーキング博士

 映画「博士と彼女のセオリー(原題:The Theory of Everything)」を観た。

 この映画は、イギリスの理論物理学者であるスティーブン・ウィリアム・ホーキング博士の半生についての映画であり、ホーキング博士の業績と実生活(家族、恋愛)についての映画である。

 スティーブン・ウィリアム・ホーキングは1963年にブラック・ホールの特異点定理を発表し、世界的に有名になる。このブラック・ホールの特異点定理は、数学者でもあるロジャー・ペンローズと共同して発表された。

 太陽の何倍の質量を持つ恒星の終わりは崩壊である。恒星自身の重力が収縮に反する力より大きくなると内部に向かって崩壊する。恒星が巨大なら崩壊によってブラック・ホールが形成される。そしてその場所にさらに収縮して、中心点に時空の特異点が出現する。そこでは、時空と時間が止まっている。映画の中でこのような説明をロジャー・ペンローズがする。

 映画ではホーキングはこの講演を聞いた後に、この案を元にして、自説を組み立てていく。正直に言ってホーキングの発見の偉大さは常人にはわかりかねるところがある。ホーキングの理論の素晴らしさは、きっと専門家ほどよくわかるものなのだろう。

 ホーキング博士というと車いすに乗っている映像を思い浮かべる人が多いと思うが、この映画では何故ホーキング博士車いすに座ってコンピュータを用いて会話をするかが明らかになる。

 その理由とはホーキング博士が抱えている病気である。その病気の名前は“運動ニューロン疾患”である。体の運動神経細胞がおかされて、脳からの命令が筋肉に伝わらなくなる病気である。脳では思考が問題なく行われる。しかし脳の命令に体が反応しなくなるのである。

 ホーキング博士は当初、余命は2年だと宣告される(しかし、ホーキング博士はその診断から50年経つ現在でも生きている。それは病気の進行が遅くなったためだと思われる)。ホーキング博士は自身の持論で有名になり、それに加えてホーキング博士の持つ病気が、ホーキング博士の存在を特異なものにしているのかもしれない。

 映画ではホーキング博士の理論的な面は少ししか触れられない。映画で大きな筋となっているのは、ホーキング博士ホーキング博士の最初の妻ジェーン・ワイルドの恋愛関係、夫婦関係である。

 神を信じないホーキングと、神を信じるジェーン。その2人の関係は破局を迎えることになるが、映画の中では2人のお互いを思う気持ちのそのすれ違いが描かれている。偉大な物理学者であるホーキングについて知るには、ホーキングの理論よりホーキングの持つ恋愛観や家族観の方がわれわれ凡人には理解しやすいのである。

 

※重力とは星の持つ、その星自身の内部に向かう力。つまり収縮する力。それに反する力、星の中心から外側に広がる力、つまり膨張する力も存在する。収縮する力が膨張する力より大きくなると、恒星は崩壊する。