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勝った方が正しいというルール

 映画「アクト・オブ・キリング(原題:The Act of Killing)」を観た。

 この映画は、1965年9月30日にインドネシアで発生した軍事クーデターを機に発した、民間人による民間人の大量虐殺を描いた映画である。この軍事クーデターのことを9月30日事件(通称9・30事件)と呼ぶ。

 9・30事件の以前のインドネシアは、スカルノ大統領が国の代表を務めていた。しかし1965年の9月30日のクーデターが起こると、スカルノの影響力は弱まり、スハルトが率いる右派軍人勢力が国の権力を握ることになる。

 軍事クーデターを起こしたのは、急進左派軍人勢であり、その鎮圧に成功したのがスハルト率いる右派軍人勢であった。

 右派が勢力を握ると、左派が弾圧される。インドネシアでもアメリカで赤狩りが行われたように、共産主義者を捕らえて社会から排除していくということが行われた。そしてその共産党員の排除(共産党員と思われる者の殺害)は民間の人々の手により行われた。

 そのインドネシアの民間人の集団をプレマンと呼ぶ。プレマンとはフリーマン(自由な人)という意味である。プレマンを構成する民間人はやくざや、民兵集団であり、青年団でもあった。

 現在でも大量虐殺を行った青年団は続いている。その青年団の中でも最大級の青年団はパンチャシラ青年団である。パンチャシラ青年団は1965年にカンプン・コラン大虐殺を起こしている。森の中に住む住民がリンチされ殺され、家には火が放たれた。

 この映画の中には、主として1965年の殺人者として2人の人物が登場する。1人はアンワル・コンゴというプレマンのリーダーであり、もう1人はアディ・ズルカドリという人物である。

 アンワル・コンゴは大量殺人をした後遺症として精神的に追い詰められている様子を見せるが、もう1人のアディ・ズルカドリという人物は殺人をした事実を“仕方のなかったことだ。俺はただ上からの命令に従って、金欲しさに殺人を犯しただけだ”とけろりと言いのける。アディに精神的に追い詰められている様子はあまり見られない。

 アディはこの映画の監督ジョシュア・オッペンハイマーにこうも言う。「戦争は勝った方がルールを作る。戦争に勝てば、殺人の責任なんてとらなくていい。現にアメリカがそうじゃないか。だから俺は悪くない」と。

 アディは戦争について冷静に分析している。そこには後悔の様子はうかがいしれない。「俺は強い方にいる。だから俺が正義だ。文句あるか?」戦争の勝者も殺人者であることは事実であるのに。