芸術と狂気

 映画「悪魔とダニエル・ジョンストン(原題:The Devil And Daniel Johnston)」を観た。

 映画のタイトルにある“ダニエル・ジョンストン”とはアメリカのテキサス州ウォーラーに住む(映画制作時)いわゆる芸術家である。

 ダニエル・ジョンストンはどんな作品を作っているのか?ダニエルが作っているのは、映像作品、絵そして音楽(ビートルズに影響を受けた歌曲)である。

 そしてダニエルは精神を病んでいる、精神病の患者(躁鬱病)でもある。ダニエルは幼い頃から映像作品と絵と音楽を愛する子供であった。

 ダニエルはアーティストとして有名になりたかった。世界的に有名なアメリカの音楽番組MTVに出演することがダニエルの夢だった。ダニエルは自身の夢である有名になることをかなえることができた、皆が憧れる人物であると同時に、精神世界と現実とのバランスを失った、精神病患者でもある。

 世の中に精神病の患者は沢山いるが、ダニエルのように有名になる人はそう多くはない。ダニエルは有名になれただけ幸福なように見える。世の中には精神を病んでいて有名でない人が沢山いる。当然だ。それは精神を病んでいなくて有名になれない人がいるのと同じである。有名になれる人は一握りである。

 ダニエルが精神を病むくらい、芸術に関して敏感な心を持っていたから有名になれたという人はいるかもしれない。精神病の人は普通の(健常な)人よりも感受性に長けた心を持っていて、それが彼らの芸術表現の源になっていると考える人もいるかもしれない。

 しかし世の中には心を病んでいても芸術的才能を開花させない人もいる。

 ダニエルは学生の頃ローリー・アレンという女性に恋をしている。その恋は実らぬ恋だった。ローリーはピートという葬儀屋に勤める男性と結婚してしまう。ダニエルは強く強くローリーを愛しているのにローリーと結ばれることはできなかった。

 ダニエルの親友であるデヴィッド・ソーンベリーはこう言う。「ダニエルは報われない恋を抱えているがゆえに創作の題材を失わずに済んだ」ダニエルの抱える喪失感ゆえにダニエルの創作は豊かなものになっていったのかもしれないし、もしダニエルとローリーが結婚していてもダニエルは創作を続けていたのかもしれない。

 何がダニエルの創作の源になっているのかなんて誰にもわかることではないのではないのだろうか?ただ事実はこうある。ダニエルは心を病んでいて、そしてダニエルの作り出す芸術は多くの人に認められていると。心を芸術との関係なんて確かなことは何もない。この2つの繋がり(心が病んでいる人は芸術的才能がある)は必然ではない。