新しい価値観と向き合う

 映画「惑星ソラリス(英題:Solaris)」を観た。

 映画の舞台は、未来の世界で、人間は惑星ソラリスに進出して、惑星ソラリスに基地を作っている。そして惑星ソラリスにある基地では異常が起きており、その異常を調査するために、主人公のクリスが派遣される。

 惑星ソラリスで起こっている異常とは何か?それは、人間の記憶の中にある“もの”が現実として出現するということであり、その現象が原因で、ソラリスの基地には自殺するものまで出てきている。

 では何が人間の記憶の中にある人間やものを再現して、現実のものとして存在させているのか?それは惑星ソラリスを覆っている海に原因があると、基地の科学者たちは言う。惑星ソラリスを覆っている海には知能があって思考できるという。そしてその知能を持つソラリスの海が、人の記憶の中にある人やものを現実のものとして出現させているというのである。

 これはどうやら惑星ソラリスの基地内のみで起こる現象である。そして、その現象は基地にいる人物一人一人について起こり、その“もの”を見ているのはその記憶を持っている自分だけではなく、他人にも見えるのである(つまり幻覚ではない )。つまりそのものは現実に存在するのである。

 主人公クリスの場合にまずクリスの前に登場するのは10年前に死んだはずのクリスの妻である。クリスはそれに驚いてクリスの妻の生き返り(?)をロケットに入れて、宇宙の彼方に放り出してしまう。

 しかし、それにもかかわらずクリスの前には又、クリスの妻ハリーが出現する。人の記憶を物体化するのが惑星ソラリスなのである。この映画に描かれている惑星ソラリスの海とは、想像上の物体を現にある存在として出現させてしまう、創造主のような存在である。

 主人公クリスは、自分の目の前に出現する妻ハリーの姿に悩むようになっていく。クリスは死んだはずの妻が目の前にいることに対してうまく対応できなくなっていく。妻は死んだ!!しかし、目の前にいるのは妻以外の何者でもない。

 クリスは次第に惑星ソラリスの持つ能力の前にただそれを受け入れるようになっていく。クリスの目の前に存在する妻というのは、受け入れがたい、しかし新しい現実である。惑星ソラリスは人間の前に、人間は再現可能であるという事実を突きつける。

 人間はそれにうまく対応してくことができるのだろうか?人間は生き続ける限り、常に新しい価値観と向き合うことになる。時として従来から考えられていることを覆してしまうような現実に向き合うことになる。

 その時人間は、その新しい価値観とどのように向き合って行くことができるのだろうか?惑星ソラリスの“もの”の再生という能力は、例えばクローン技術のようなものと考えてみてはどうだろうか?人間は新しい事実に多様性に開かれた形で、多様性故に不安にならずに向き合って行けるのだろうか?