欲望と節度

 映画「インサイド・ジョブ(原題:Inside Job)」を観た。

 2008年9月15日に起きた世界金融危機について取り上げた、ドキュメンタリー映画である。映画の冒頭でこう表示される。「2008年の世界金融危機は、数千万人もの貯蓄や仕事や住宅を犠牲にした」と。つまり世界中に無貯金者や、失業者や、ホームレスが同時に大勢出たということである。

 この世界金融危機が我々の生活に及ぼした影響は計り知れない。ではこの金融危機の原因はそもそもどこにあるのか?それがこの映画で明らかにされる。

 世界金融危機の原因を作ったのは、金融界とそれに理論的な支えを与えた大学界にあると映画は語っている。世界金融危機の原因はアメリカにある。世界経済は連動している。どこか一ヶ所に悪い影響があれば、それは世界各地に広がる。2008年の世界金融危機の発源地はアメリカのウォールストリートにあるとこの映画では語られる。アメリカの金融界の規制緩和が2008年の世界金融危機を引き起こしたのである。

 アメリカ政府は何の規制を緩和したのか?それは投資に対する規制緩和である。投資とは何か?例えばそれは、私たちが銀行に預けているお金を運用して収益を上げることである。この場合もし、銀行に私たちが預けているお金を損失してしまった場合はどうなるか?それは私たちのお金が無くなることであり、私たちにとって大きな痛手となる。損失を穴埋めしてくれる保証などどこにもない。

 この場合、規制をして、銀行に預けたお金は投資に使えないものとするのが賢明であるように思われる。しかし、ここでアメリカの政府はどうしたか?それはこうである。

 国民の生活を支えるお金を守ることよりも、お金を失う危険を犯してもお金を増やすことの方が重要である。損失(国民の手元からお金が無くなる)が出るリスクよりも、お金を運用して得られる収益の方に目を向けるべきだ!!よってお金の運用の邪魔になる規制を取り払え!!(つまり)規制を緩和しろ!!そういう行動をアメリカ政府、金融界はとったのである。

 そして、そのような規制緩和のなかで作られた金融商品が安全かどうかを判定している会社(格付け会社)をもコントロールして収益のために、リスクが高い金融商品でも“安全です”と嘘をつくように仕向けたのである。(格付け会社の嘘に皆騙された)

 とにかくどんな金融商品でも、嘘をついてでも売って、売って、売りまくれ!!それが金融界の態度である。目の前の収益の欲しさの欲に駆られて、引き起こされるかもしれない損失への不安など少しも怖くないというのである。

 売って、売って、売りまくって損失を出した金融界はどうなったのか?国民の税金によって救済された。国民は、住宅ローンを払えずに、仕事もなく苦しんでいるのにである。

 国民の救済が国民の税金によって行われるべきであり、非情な態度を取った金融界にも救済があってもいいが、金融界に支払われる救済の額はそれ相応の、一般的な生活ができる程度であるべきであり、それでも優しい寛大な態度であると思う。金融界は、金融界のボスたちは少しは国民の身になって考えているのだろうか?彼らの常識は疑わしいものではないのだろうか?